木村 隆幸; 大月 直樹; 北野 睦三; 前西 修; 佐藤 満雄; 小池 智; 宮本 一宏; 安松 隆治
日本気管食道科学会会報 (NPO)日本気管食道科学会 74 (3) 219 - 227 0029-0645 2023/06
(はじめに)喉頭癌に対する喉頭全摘術に伴う甲状腺切除の術式はさまざまな報告がなされているが方針は施設ごとに異なる。一方で,上記における甲状腺機能低下と副甲状腺機能低下は無視できない合併症である。(対象と方法)当科で2016年1月から2021年9月にかけて喉頭扁平上皮癌の診断で喉頭全摘術を施行した37例を対象に甲状腺の切除の方法,浸潤や転移の有無について後方視的に検討した。対象の年齢は中央値73歳(54~93歳),男性33例,女性4例であった。亜部位は声門17例,声門上18例,声門下2例であり,UICC 8版によるcStageはI/II/III/IVa/IVb:1/5/16/14/1であった。甲状腺の切除法は切除なし(温存)9例,半切除14例,全摘14例であり,頸部照射歴(喉頭癌治療含め)ありは9例であった。(結果)甲状腺切除を行った28例中2例に甲状腺直接浸潤,1例に甲状腺転移を認めた。甲状腺の切除術式を温存/半切除/全摘に分けた際の2年全生存率,2年疾患特異的生存率は3群間で有意差を認めなかった。術前の甲状腺,副甲状腺機能は全例で正常であったが,甲状腺の温存を行った9症例のうち2例(22.2%)に甲状腺機能低下を認め,副甲状腺機能低下をきたした症例はなかった。甲状腺半切除を行った14例は甲状腺機能低下を50%(7/14例)にきたし,副甲状腺機能低下を14.3%(2/14例)で認めた。甲状腺全摘術を行った14例は甲状腺機能低下を全例(14/14例)できたし,副甲状腺機能低下は92.9%(13/14例)で認めた。(結論)進行喉頭癌症例における喉頭全摘術の際には甲状腺全摘が推奨されてはいるものの,画像や術中での明らかな甲状腺浸潤所見を認めない場合は副甲状腺機能温存のメリットを考慮し,患側の甲状腺半切除にとどめることを検討することが望ましい。(著者抄録)