漢字平仮名交じり文における表記の選択―博文館『太陽』における外国地名の漢字表記と片仮名表記―
深澤愛
日本語科学 14 29 - 53 2003年11月
[査読有り] 近代語の表記に関する研究で、これまで外来語の表記も少なからず注目されてきたが、表記「史」を念頭におくなら、その漢字表記から片仮名表記への移行についての考察は看過されてはならない。本稿は博文館の総合雑誌『太陽』(明治28~昭和3)を資料に、漢字平仮名交じり文における外国地名に漢字ではなく片仮名表記が選択された場合に注目し、片仮名表記への移行の要因を考察するものである。
文語文体・口語文体の別と、漢字表記・片仮名表記の選択との関係を調査した結果、(1)口語文体には片仮名表記の「受け入れ易さ」があること、(2)使用頻度の高く漢字表記が主流の地名に片仮名表記が選択されるのは、口語文体のもつ「表記の受け入れ易さ」により、漢字表記から片仮名表記へという方向性が顕在化したものであること、を指摘した。(1)(2)に基づく考察から、外国地名が片仮名表記へと移行した要因は、外国地名が定着したことというよりはむしろ、外国地名の定着により引き起こされた口語文体からのはたらきかけであると結論づけられる。