杉本 圭相 (スギモト ケイスケ)
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今回我々は,肉眼的血尿を契機に左水腎症と巨大尿管を発見し,さらに Becker 型筋ジストロフィ(Becker muscular dystrophy: BMD)を合併していた小児例を経験した.症例は 8 歳男児.初めての肉眼的血尿を主訴に来院した.超音波検査にて左水腎症(SFU 分類 Grade 2)と巨大尿管を指摘され,CT-urography で左腎尿管移行部狭窄を認めた.腸管などの外部からの圧迫や腫瘍がなく,先天性腎尿路異常(CAKUT)と診断した.生来健康で身体所見に異常はなかったが,初診時より著明な高 CPK 血症を呈していた.腎尿路損傷による異常ではなく,遺伝子検査の結果,Exon 48 にジストロフィン遺伝子の欠失を認め,BMD と診断した.筋ジストロフィに CAKUT の合併を認めた既報はなく,腎尿管の発生や骨格筋の形成による関連性を含めて報告する.
ネフロン癆(nephronophthisis: NPH)は,腎髄質に囊胞形成を認める進行性の囊胞性腎疾患の代表であり,小児期の末期腎不全の約5%を占める。組織学的には,進行性の硬化,硝子化糸球体を伴う尿細管間質性腎炎像を呈する。遺伝形式は主として常染色体劣性遺伝を示す。NPH の初期症状は,多飲,多尿,尿最大濃縮能の低下,二次性の遺尿や成長障害であるが,病勢がかなり進行した末期腎不全の状態で発見されることも少なくない。低比重尿や低分子蛋白尿は特徴的な検査所見である。また,NPH は眼や顔貌・骨格異常といった腎外症状を合併するため,診断の手がかりとなる。NPH 発症に関与する責任遺伝子はNPHP であるが,その同定率は約30%にすぎない。近年,全エクソーム解析の進歩により原因遺伝子が増加している。本邦ではNPH の診断基準が作成され,今後,NPH 未確定診断例の確定診断への指針となると思われる。