慢性胃粘膜感染したピロリ菌が分泌する外膜小胞による神経炎症の制御機構
日本学術振興会 科学研究費助成事業:科学研究費助成事業
Date (from‐to) : 2021/04 -2024/03
Author : 朴 雅美
In vivo study
アルツハイマーモデル(AD)マウスと野生型(WT)マウスにヘリコバクター・ピロリ菌(HP)を長期間(10ヶ月)感染させ、新奇物体探索テストにより認知行動/運動量の解析後に血液、脳と胃を回収した。コントロールとして、同齢のHP非感染ADマウスとWTマウスを用いた(AD±HP, WT±HPの4群)。
新奇物体探索テストでの認知行動には4群間で差が見られなかったが、ADマウスでは運動量が亢進しており、特にAD+HPではWT+HPに比べ有意に増加していた。これは認知症に見られる徘徊行動に類似する状態であるといえる。HP+マウスでは血中エンドトキシン濃度が有意に増加していた事からHP感染によって消化管がリーキーな状態になっていることが分かった。HP+マウス脳内ではミクログリアの活性化が認められたが、HP-との差は以前に解析した感染5ヶ月後の方が顕著であった。
In vitro study
これまでの動物実験解析からHP感染による脳ミクログリアの活性化にはHPが産生する外膜小胞(OMV)が影響している事が考えられたため、ピロリ菌からOMVを回収し、脳の細胞への影響を調べた。WTマウスから脳グリア細胞を回収し、OMVを暴露したところ、IL-6, IL-1bなどの炎症性サイトカインが増加した。脳グリア細胞には主に3種の細胞(ミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイト)が混在しているため、それぞれへの影響を調べるため細胞株にOMVを暴露しサイトカインのmRNAを調べた結果、オリゴデンドロサイトは全く反応せず、ミクログリアが最も強く反応した。このことは動物実験結果と一致していた。