川原 尚子 (カワハラ ナオコ)
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水素のエネルギー貯蔵能力は,島嶼部で水素エネルギーを使用することが,エネルギー安全保障上の大きな長所をもたらす可能性を与える。水素の社会的受容性については,従来,安全面での関心から世界的に多く研究されてきたが,日本における先行研究は非常に限られている。本研究は,愛媛県の旧中島町の島民の,水素ステーションの社会的受容性について,アンケート調査を実施した。個人的な価値観が,水素ステーションの受容性の主な決定要因だった。再生可能エネルギーから地域で製造した水素は,より安全性や環境性の向上のインパクトがあると予測され,化石燃料から製造された地域外で製造された水素は,経済発展やエネルギー安全保障上のインパクトがあると予測されていた。また,再生可能エネルギーからの地域での水素製造か,化石燃料からの地域外での水素製造かの如何によらず,地域の人は,水素ステーションの設置が地域の社会的な便益をもたらすと予想したときに,水素ステーションをより受容した。当該結果は,高齢化社会が進展している日本の島嶼部における,水素エネルギー導入の実施可能性の検討の際に,有用な示唆を与えるだろう。
本研究では,国内のSIAの課題は何か,また,当該課題がいかに解決される可能性があるかをリサーチクエスチョンとした。このリサーチクエスチョンの意図は,国内のSIAの課題が何であるかまずは明確に認識し,さらに,その解決の方向性に関する認識をSIAの研究者や実施者が持つことが,国内のSIAの問題解決の初めの一歩となる可能性があると考えたためである。そのため,本研究では,国内のSIAの課題を既往研究から抽出し,そこで抽出された重要な課題に関連して,世界のSIAの理想形に関する議論をレビューして,解決の方向性を示した。 日本のSIAの課題は,スコープの狭さ,厳密なステークホルダー分析の不在,ステークホルダーへの悪影響がある場合にそれを解決する事前・事後の手続きの不在,参加型アプローチおよび質的分析手法が不徹底であることなどであると議論された。また,それらの解決の方法として,負の影響の分析や心理面の分析などをスコープに入れることや,ステークホルダーへの悪影響がある場合にそれを解決する事前・事後の手続きをとることなどの必要性を国内で議論し,必要であればスコープや手続きを見直すことを提案した。さらに,民主社会でのSIAでは必須と考えられる参加型アプローチ,質的分析手法の実施の正当性を論じた。