道岡 武信 (ミチオカ タケノブ)
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近年、電力自由化に伴い、既設の風力発電所近くに火力発電所が建設される事例があり、周辺地域への影響が懸念されている。風車によるガス拡散への影響については簡易モデルで検討されている例はあるが、風洞実験や数値シミュレーションなどで風車後流域を考慮した検討は実施されていない。本研究では風車の風下側および風上側にガスの放出源がある場合の風車後流域の排ガス拡散挙動を数値シミュレーションにより検討した。ガス放出点が風車風上に位置する場合、ガスの放出点の高さの違いにより風車がガス拡散に及ぼす影響度が変化することがわかった。ガス放出点が風車ハブ高さと同じ高さに位置する場合、風車後方でガスは風車ブレード長さ程度まで一様に拡散し、地表付近でのガス濃度が高くなる。ガス放出点が風車ブレードの上端付近に位置する場合、風車近傍で風車ハブ高さよりも低い高さまでガスが拡散され、風下に行くにつれガスは地表付近まで拡散され、風車遠方位置において地表面付近のガス濃度が高くなる。ガス放出点が風車ブレードの上端よりも上に位置する場合、風車風下で風車回転によるガス拡散挙動への影響は小さい。一方、ガス放出点が風車風下に位置する場合、ガス拡散範囲、ガス濃度ともに風車有無に関わらず、同じ傾向を示し、風車による影響は小さいことがわかった。
地熱発電所の環境アセスメントにて実施される硫化水素の大気拡散予測評価の期間短縮および費用削減を目的として、従来行われている風洞実験の代替として用いることのできる3次元数値モデルを開発した。
地熱発電所の冷却塔から放出される硫化水素の大気拡散評価を行うためには、冷却塔からの排気上昇過程、周辺建屋による拡散への影響、周囲の地形による拡散への影響を的確に再現できる必要がある。そのため、これらの現象を高精度に再現可能と期待されるラージ・エディ・シミュレーション (LES) をベースとした数値モデル構築を行い、さらに、LESに適した格子生成プログラムを開発した。
また、開発した数値モデルの予測精度検証のため、実際の地熱発電所を想定した風洞実験を行った。風洞実験との比較の結果、開発した数値モデルは風洞実験で得られた地表濃度の傾向を精度よくとらえられており、環境アセスメントで重要となる最大着地濃度に関しては、すべてのケースで風洞実験結果の0.5~2.0倍以内に収まる結果となった。これらの結果から、開発した数値モデルは地熱発電所環境アセスメントの硫化水素拡散予測に十分適用可能であると結論づけられた。
近年、任意の格子形状を扱えるCFDソフトウェアが台頭してきたことにあわせ、表面形状が複雑な物体に対しても多面体格子を自動的に配置することで柔軟に計算格子を生成することのできるシステムが多数開発されている。しかし、これらのシステムによって生成された格子を地形上の流れや汚染質拡散のラージエディシミュレーション(LES)に用いた例はほとんどなく、その適用可能性は不明である。そこで、本研究では単純地形上の流れおよび拡散を対象に、これらのシステムによって生成された格子を用いた計算を行い、これまで地形上流れの計算で多く用いられていた直交曲線座標系格子との比較を行った。風洞実験の結果との比較によりLESの再現精度について検討した結果、地表面付近の格子形状によって地形からの剥離気流の性状が変化することを明らかにし、地形周りの平均速度・乱流統計量および汚染質濃度を精度よく再現するには、地表面近傍の格子を地表面形状および流れ方向に沿わせることが必要であることを示した。