過失犯の共同正犯について―過失不作為犯を中心に― [通常講演]
金子 博
日本刑法学会関西部会 2012年01月
わが国では、過失犯の共同正犯に関する根拠は、意識的・意思的な共働または因果的な共働と考えられている。もっとも、過失の共同正犯の法形象が認められうるどうかの問題は重要視されるが、共同正犯の範囲は重要視されていない。それゆえ、共同の行為計画を前提としない関与が問題となる。例えば、経営者らが有毒な製品を回収する決議を怠り、消費者において死傷結果が生じた場合、支配的な見解によれば、経営者の共同責任も、そして因果関係が認められないために単独責任も存在しない。これは、過失の共同正犯の根拠を看過していることを意味する。それゆえ、ドイツの議論に依拠しながら過失犯の共同正犯の根拠について考える。
ドイツでは過失犯の共同正犯を基礎づける試みが増している。伝統的な見解によれば、共同の行為計画(あるいは共同行為の認識)が要求されている。しかし、関与者らが共同計画なしに寄与した場合、共同責任は存在しない。さらにいえば、共同の決意は、構成要件の実現に関する共同責任を基礎づけるものではない。これに対し、最近の規範的な見解によれば、構成要件的態度の共同管轄が共同性を基礎づけている。この管轄は、たとえ関与者らが共同計画なしに寄与したとしても、共同責任を基礎づけることができる。
以上のことから、過失の共同正犯にとって決定的なのは、構成要件該当結果を回避または阻止する共同(注意)義務の共同違反である、ということが導き出される。